飲食業界が大きく動く中、寿司職人の働き方も変わりつつあります。飲食専門求人サービスのペコリッチが、人気寿司店「寿司の美登利」への取材をもとに、これからの寿司職人像を考えました。
寿司職人とは〜板前との違い〜
まずは、時折寿司職人と混同される「板前」について、基本的な意味を押さえておきましょう。
板前は、現代では「日本料理(和食)の料理人」を指す言葉です。「板」は「まな板 」から来たもので、まな板の前で調理する人として、関東では板前、関西では「板元」「板場」とも呼ばれます。
板前には「追い回し」「八寸場」「焼き場/揚げ場/蒸し場/煮方」「椀方」「脇板」「花板」といった序列があります。
寿司職人は文字どおり寿司をつくるプロフェッショナルです。魚介類と米で握り寿司、巻き寿司、ちらし寿司などを調理します。
寿司も日本料理のひとつであり、まな板の前で仕事することは変わらないので、厳密に言えば寿司職人も板前に含まれる、とも言えます。しかし、寿司は日本料理のなかでも特別なジャンルであり、板前と寿司職人ははっきりと区別するのがふつう。料理人としてのキャリアもまったく別々だと考えて良いでしょう。
これからの寿司職人像
では、寿司職人とは一体どんな職業なのか? かつては「寿司(職人)とはかくあるべし」といった固定観念が支配的でしたが、昨今ではさまざまなスタイル、考え方を持った寿司店が活躍しています。都内を中心に30店舗の「寿司の美登利」を経営する梅丘寿司の美登利総本店もそのひとつです。
これからの寿司職人の働き方
何年も修行してきた寿司職人が、親方に許されて、はじめてお客様の前で寿司を握るーーそんなシーンをドラマや漫画でみたことはないでしょうか?
寿司職人には、「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」という言葉があります。10年修行してやっとお客様に寿司を提供できる、といった世界。もちろん店にもよりますが、昔ながらの縦社会に身を置き、長い下積みに耐える厳しい風習は、今でも残っています。
いっぽう、寿司の美登利では早ければ新卒入社から2年目で、お客様の前で寿司を握り提供します。行列の絶えない繁盛店であるため、短期間で密度の濃い経験ができる、といった同店ならではの事情はあります。
同時に、体系的な研修、スキルアップの仕組みを整えていることが重要。「親方の仕事を見て盗む」昔ながらの修行ではなく、しっかりとしたOJTの下、手順を踏んで具体的に仕事を教えられます。寿司職人は最小限の見習い期間で、早いうちに実戦の場で活躍できるのです。
また、同社はハラスメントの防止や従業員のワーク・ライフ・バランスを重視しています。時代に応じた研修や労働条件の整備は、従来の寿司店とは一線を画すものです。親方から怒鳴られたり、長時間労働が当たり前の職場環境は、変わりつつあります。
賛否はあるでしょうが、旧態依然とした職人的な慣習は変わっていくでしょう。人材採用の競争は激しく、インバウンド需要や海外進出を含め、寿司には堅いニーズがあります。寿司店としては、働きやすい環境を整えて人材を定着させ、早く戦力になってもらわねばならないのです。
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これからの寿司職人に必要な能力、向いている人とは?
厳しい修行、長い下積みにじっと耐える根性は、これからの寿司職人にとって必須ではなくなりました。代わりに求められる能力(努力)として、ここでは次の5つを挙げます。
1.調理の技術と食材の知識に長けている
当然のことですが、修行(仕事を覚える)のプロセスが変わっても、美味しい寿司をつくる技術はもっとも重要な寿司職人の能力であることは変わりません。効率よく技術を習得できる時代からこそ、より一層の工夫で、お客様を感動させるような寿司職人が活躍するはずです。
また、寿司のネタや調理法はますます多様化します。これまで以上に、豊富な食材の知識が寿司職人に求められるでしょう。
2.お客様のニーズを察知し変化をいとわない
マヨネーズやデカネタが一般的になり、肉や野菜、外国料理を使ったネタ、マグロからサーモンが人気になるなど、一昔前からすれば、寿司は大きく様変わりしました。変わり種の寿司は回転寿司に多いイメージがありますが、職人が握る街の寿司店でも、お客様の好みは変わっています。
寿司は文化的な背景が重んじられる料理だけに、ともすれば職人は変化への対応が遅れてしまいます。寿司の美登利の創業当時、穴子を一本使った握りやマヨネーズを使った軍艦を提供すると、「本当の寿司ではない」との批判が他店からあったと言います。
「寿司の良し悪しは、職人ではなくお客様が決めること」が同社のスタンス。食材や調理法の制限はなく自由な発想で、商品開発が進められるといいます。
新しい寿司への賛否や、程度の問題はあるでしょう。店の伝統をひたすら受け継ぐことで、長く一線で働く職人も一部に残るはず。しかし今後は、しきたりに縛られず、時代ごとにお客様が求める寿司を追求する職人が、さらに活躍すると考えられます。
3.ともに働く人へのリスペクトがある
寿司店に来たお客様は、職人の鮮やかな仕事ぶりに目を見張り、シンプルながら計算され尽くした寿司の味に感動します。寿司職人はいわば店の花形で、お客様の喜ぶ姿を間近でみられる「おいしい」ポジション。それだけに料理人のあこがれの対象になり、お店はトップの寿司職人(親方)を中心に回ります。この関係性は、親方の元での長い下積みや修行文化と、無縁ではないでしょう。
いっぽうで、寿司店はカウンターの寿司職人だけで運営されているわけではありません。接客する人、バックヤードで仕込みをする人がいなければ、寿司職人の仕事は成り立たないのです。寿司の美登利は、チームでの仕事を大変重視しており、寿司職人は周囲のスタッフに配慮したコミュニケーションを徹底しています。
また、経験の浅いスタッフに丁寧に指導することも、これからの寿司職人の重要な役割です。相手の気持ちになってともに働き、よいチームをつくる寿司職人が活躍していくでしょう。
寿司職人の年収とキャリア
専門的な技術・知識が求められる寿司職人は、料理人の中でも比較的高収入が見込める職業です。求人媒体の調査では、寿司職人の年収は470万円程度でした。
寿司職人のキャリアパスは次のようなステップが考えられます。
- 20歳 調理専門学校を卒業し、都内で20店舗を展開する寿司店グループに新卒で入社。初任給25万円(年収300万円)
- 23歳 充実した社内研修を受け、カウンターで寿司を握れるように。月給28万円(年収336万円)
- 30歳 ひととおりの調理業務をこなす一人前の寿司職人に。後輩の指導にも取り組む。月給33万円(396万円)
- 35歳 料理長兼店長として支店を任される。月給40万円(480万円)
- 42歳 本部に入り仕入れ部門、商品開発部門を経験。幹部候補としてグループの経営に携わる。月給55万円(660万円)
日本を代表する食文化である寿司は、海外を含めたくさんのチャンスを秘めています。将来性のある職業だと言えるでしょう。
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寿司職人になるには?
これから寿司職人の道を目指すには、「寿司職人養成専門学校」「職人に弟子入り」「寿司店グループに入社」と、主に3つの進路があります。
専門学校では基礎的な技術、知識を短期間で学ぶことができ、就職支援も受けられます。弟子入りは、長い修業の可能性はありますが、どうしても学びたい先輩職人がいるなら有力な手段です。店舗の拡大を進める有望な寿司店グループは、多くが企業として教育制度や労働条件の整備を進めています。本稿で紹介した「これからの寿司職人」に近い職人像を目指すには、よい選択肢となります。
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寿司職人の仕事内容
店舗により異なりますが、寿司職人の仕事には概ね「仕入れ」「仕込み」「握りと接客」「掃除、洗い物など」「教育、就業管理」があります。
仕入れは、よい食材を安く仕入れる仕事。目利きとともに、仕入先の開拓や交渉も大切です。前述のとおり、食材の仕込みはカウンターの職人を支え、また若い職人にとって貴重な学びの機会となります。握りと接客がセットになっているのは、カウンターで職人が調理する寿司店ならでは。味とともに「見せる」要素も求められます。掃除、洗い物は生物を扱う寿司店で、特に重要な仕事です。
経験を積んだ職人にとっては、今まで以上に教育、就業管理が重要な役割となります。前述の「働く人へのリスペクト」に通じるでしょう。
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まとめ
社会全体の働き方が変わっていくなかで、新しい寿司職人のスタイルが定着しつつあります。これからの寿司職人は、長い下積みはなくなるかもしれませんが、お客様の好み、その時代のトレンドに合わせて、柔軟な姿勢が求められます。花形ポジションだからこそ、接客スタッフや、仕込みをしてくれる後輩に配慮し、よい職場環境をつくることが大切です。
本稿では、梅丘寿司の美登利総本店の監修の元、年収や仕事内容といった気になるポイントも含めて、寿司職人の全体像をまとめました。個別の内容はさらに詳細な記事を用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
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